図の「登記簿謄本」は一般に使われる呼び方です。この記事では、法務局で取得する書類を「登記事項証明書」と表記します。
「相続した実家を売りたいけれど、先に解体してよいのだろうか」
「空き家の3,000万円特別控除は、自分の家にも使えるのだろうか」
そう思って調べ始めても、国税庁の案内には家屋、利用状況、売却期限、必要書類など多くの条件が並んでいます。まず押さえたいのは、3,000万円が支給される制度ではなく、一定の条件を満たす相続空き家の譲渡所得から最高3,000万円まで控除する制度だということです。
解体との関係では、「耐震基準を満たした建物を売る」「売主が全部解体してから土地を売る」「建物付きで売り、売却後に全部解体または耐震改修する」という方法があります。どの方法がよいかは、特例の条件だけでなく、建物付きと更地の査定額、解体費用、売却までの期間を並べて考えます。
記事の情報について
この記事は、2026年7月21日に国税庁・国土交通省の公開情報を確認して作成しています。国税庁の案内は2025年(令和7年)4月1日現在の法令等に基づく内容です。税制は改正されることがあり、実際の適用可否は相続や売却の状況によって異なります。売買契約や解体工事の契約前に、管轄の税務署または税理士へ確認してください。
正式には「被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除の特例」といいます。
相続または遺贈で取得した、亡くなった方の自宅やその敷地を売ったとき、一定の条件を満たすと譲渡所得から最高3,000万円まで控除できます。2024年(令和6年)1月1日以後の譲渡で、対象となる家屋と敷地等を取得した相続人が3人以上いる場合、各相続人の控除上限は2,000万円です。現行制度の適用期間は2027年(令和9年)12月31日までとされています。
制度の対象や要件は、国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」で確認できます。
控除の対象になるのは、売却代金そのものではなく「譲渡所得」です。
| 計算の順番 | 内容 |
|---|---|
| 1 | 売却代金から取得費と譲渡費用を差し引く |
| 2 | 差し引いた後の譲渡所得から特別控除額を差し引く |
| 3 | 残った課税譲渡所得をもとに税額を計算する |
例えば、売却代金が2,500万円、取得費と譲渡費用の合計が700万円なら、控除前の譲渡所得は1,800万円です。ほかの条件を満たして1,800万円を控除できれば、この例の課税譲渡所得は0円になります。
実際には、建物の取得費から所有期間中の減価償却費相当額を差し引く計算や、ほかの特例との関係もあります。売却価格だけを見て「税金はかからない」と判断せず、国税庁「譲渡所得の計算のしかた」も参照し、税務署または税理士へ確認してください。
最初からすべての書類を集めるのが大変なら、まずは次の条件を見てください。ここで対象になりそうかを整理してから、名義や利用状況を示す資料を確認すると進めやすくなります。
| 確認項目 | 主な条件 |
|---|---|
| 取得方法 | 売る人が、家屋とその敷地等を相続または遺贈で取得している |
| 建築時期 | 1981年(昭和56年)5月31日以前に建築されている |
| 建物の種類 | 区分所有建物登記がされていない |
| 入居状況 | 相続開始の直前に、亡くなった方以外が住んでいない |
| 相続後の利用 | 原則として、事業、賃貸、居住に使っていない |
| 売却期限 | 相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日まで |
| 制度の期限 | 現行制度では2027年(令和9年)12月31日までの譲渡 |
| 売却代金 | 原則として合計1億円以下 |
| 売却相手 | 親子や夫婦など特別な関係がある人への売却ではない |
| 手続き | 必要書類を添えて確定申告する |
この表だけで適用可否を決めることはできません。共有相続、換価分割、家屋と土地の名義が異なる場合、母屋と離れがある場合、敷地を分けて売る場合などは、対象となる範囲や売却代金の判定が複雑になることがあります。
対象となる家屋は、原則として1981年(昭和56年)5月31日以前に建築されたものです。また、区分所有建物登記がされていないことが条件なので、一般的な分譲マンションは通常対象になりません。
戸建てでも、同じ敷地に母屋と離れ、店舗、倉庫などがある場合は、家屋と敷地のすべてが対象になるとは限りません。登記事項証明書や固定資産税の課税明細書を見ながら、税務署や税理士へ確認しましょう。
原則として、相続開始の直前に亡くなった方以外が住んでいなかった家が対象です。
親と子が同居していた家を、親の死亡後に子が相続して売る場合などは、条件を満たさない可能性があります。一方、亡くなった方が老人ホーム等へ入所していた場合は、一定の条件を満たせば対象になることがあります。
相続開始時に親が老人ホーム等へ入所していたからといって、必ず対象外になるわけではありません。
主に次のような条件が確認されます。
- 要介護・要支援認定などを受けていた
- 対象となる老人ホームや施設へ入所していた
- 入所後も家財道具が保管され、本人の物品保管などに使われていた
- 家を賃貸、事業、ほかの人の居住に使っていなかった
- 施設へ入所する直前は、亡くなった方以外が住んでいなかった
施設の種類、認定時期、家の利用状況によって判断が変わります。入所契約書、介護保険被保険者証、電気・水道・ガスの利用状況がわかる資料などは、処分せずに残しておきましょう。詳しい条件は、国税庁「No.3307 被相続人が老人ホーム等に入所していた場合」で確認できます。
ここで迷ったら、まずは次の3案を並べてみてください。特例の条件を満たせる可能性があっても、費用と売却条件はそれぞれ異なります。
| 方法 | 売却時の状態 | 特に確認すること |
|---|---|---|
| 耐震基準を満たした建物を売る | 家屋または家屋と敷地を売却 | 譲渡時点で家屋が一定の耐震基準を満たすか |
| 売主が解体してから売る | 更地にして土地を売却 | 対象家屋を全部解体し、土地を利用せずに売るか |
| 売却後に解体・耐震改修する | 建物付きで売り、後から対応 | 譲渡した年の翌年2月15日までに完了できるか |
図解の「売れやすさ」や手取り額は、地域、建物の状態、買主の希望、解体費用によって変わります。古家付きと更地のどちらが有利かは一律ではないため、不動産会社の査定と解体見積もりを同じ時期に取り、金額を並べてください。
家屋を残して売る場合、原則として譲渡時点で一定の耐震基準を満たしている必要があります。
築年数の古い家では、耐震診断や耐震改修が必要になることがあります。次の金額と期間を並べると、解体だけを先に決めずに済みます。
- 古家付きで売る場合の査定額
- 耐震診断・耐震改修にかかる費用と期間
- 解体費用と工期
- 更地で売る場合の査定額
- 特例を利用できる場合とできない場合の税負担
相続人が家屋を全部解体し、その後に土地を売る方法です。
主に次の点が確認されます。
- 相続から解体まで、家屋を事業、賃貸、居住に使っていない
- 相続から土地の売却まで、敷地を事業、賃貸、居住に使っていない
- 家屋の一部ではなく、全部を取り壊している
- 解体後から売却まで、新たな建物や構築物の敷地にしていない
解体後の土地で駐車場経営を始めるなど、売却までの間に土地を利用すると条件を満たさない可能性があります。更地の管理方法も、解体前に確認しておくと安心です。
2024年(令和6年)1月1日以後の譲渡では、売却時点で耐震基準を満たしていない場合でも、譲渡した年の翌年2月15日までに家屋を全部解体するか、一定の耐震基準を満たすための改修を行うことで、対象になる可能性があります。
古家付き土地として売り、引き渡し後に買主が解体するケースが考えられます。ただし、売主だけでは解体の時期や必要書類を管理できません。国土交通省も、売却後に買主が解体する方法では買主の協力が必要になると案内しています。
売買契約では、次の点を不動産会社や専門家と確認してください。
- 家屋を全部解体する期限
- 解体費用を負担する人
- 建物滅失登記を行う人
- 解体前後の写真や証明書類を売主へ渡すこと
- 市区町村への確認書申請に協力すること
- 期限までに解体されなかった場合の取り扱い
制度の概要や売買契約の特約例は、国土交通省「空き家の発生を抑制するための特例措置」で確認できます。
解体するか決める前に費用を知りたい方へ
建物付きと更地の査定額を比べるには、解体にいくらかかるかも必要です。税務上の条件を確認したうえで、同じ撤去範囲を伝えて複数社の見積もりを比べてみてください。
特例を利用するには、次の両方を確認します。
- 相続開始の日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで
- 現行制度の適用期限である2027年(令和9年)12月31日まで
現行制度では、両方を満たす時期までに譲渡する必要があります。「相続からおおむね3年」と覚えるのではなく、亡くなった日をもとに具体的な日付を書き出してみてください。
| 相続開始日 | 相続からの期限 | 現行制度で確認する売却期限 |
|---|---|---|
| 2023年(令和5年)6月15日 | 2026年(令和8年)12月31日 | 2026年(令和8年)12月31日 |
| 2025年(令和7年)6月15日 | 2028年(令和10年)12月31日 | 現行制度では2027年(令和9年)12月31日 |
売却後に解体する場合は、さらに「譲渡した年の翌年2月15日まで」という期限もあります。年末近くに譲渡すると、残置物の整理、アスベスト事前調査、届出、解体工事を進める期間が短くなるため、売買契約前に工期を確認しましょう。
特例を利用するには、売却代金が1億円以下であることも条件です。
ただし、自分が一度に受け取る金額だけで判定するとは限りません。敷地の一部を分けて売った場合や、ほかの相続人が別の持分を売った場合は、一定期間内の売却代金を合算して判定することがあります。
先に売った時点では1億円以下でも、後から残りの部分が売られて合計額が1億円を超えると、修正申告と納税が必要になる場合があります。複数人で相続したときは、誰がどの部分をいつ、いくらで売る予定かを共有しておきましょう。
「古い家だから、まず解体しよう」と進める前に、次の順番で整理してみてください。
登記事項証明書や遺産分割協議書などで、家屋と土地を誰が取得したのかを確認します。
家屋と土地を別々の相続人が取得している場合、相続登記が終わっていない場合、遺産分割前に売る場合などは、適用関係や売却手続きが複雑になることがあります。
亡くなった日、売却予定時期、現行制度の期限を並べます。売却後に解体する案なら、翌年2月15日の期限も書き加えてください。
次のような利用がなかったかを、家族にも確認します。
- 誰かが住んでいた
- 親族などへ貸していた
- 賃貸物件として利用していた
- 店舗、事務所、倉庫などの事業に使っていた
- 解体後の土地を事業に使っていた
短期間の利用でも判断に影響する可能性があるため、分からない場合はそのまま税務署や税理士へ伝えましょう。
不動産会社の査定と、耐震改修・解体の見積もりを比べます。
| 比較案 | 確認する金額・条件 |
|---|---|
| 建物付きで売る | 建物付きの査定額、耐震基準、改修の要否 |
| 耐震改修して売る | 改修費用、改修後の査定額、工期 |
| 解体して売る | 解体費用、更地の査定額、売却までの管理 |
解体するか決めていない段階でも、見積もりは取れます。解体費用が分かると、売却後の手取り額を比べやすくなります。
売買契約や解体契約の前に、次の資料をわかる範囲でそろえると相談しやすくなります。
- 登記事項証明書
- 固定資産税の課税明細書
- 遺産分割協議書や遺言書
- 相続関係が分かる資料
- 建築年月が分かる資料
- 老人ホーム等への入所関係書類
- 相続後の利用状況
- 売却予定価格と売却・解体の予定時期
解体業者は工事費や工期を説明できますが、税制の適用可否を最終判断する立場ではありません。税務の確認と工事の見積もりを分けて進めましょう。
次の資料は、確定申告が終わるまでまとめて保管しておくと安心です。
- 解体前後の建物と敷地の写真
- 電気・ガス・水道の使用中止日が分かる書類
- 不動産の売買契約書
- 解体工事の見積書、契約書、請求書、領収書
- 建物取毀証明書など解体日と所在地が分かる書類
- 建物滅失登記に関する書類
- 不動産会社の募集広告や売却活動の記録
- 老人ホーム等への入所契約書や介護保険関係書類
必要書類は売却方法や自治体によって異なります。解体後では用意しにくい資料もあるため、工事前に物件所在地の市区町村へ確認してください。
特例の確定申告では、物件所在地の市区町村から交付を受ける「被相続人居住用家屋等確認書」が必要になります。
申請書は売却方法によって分かれています。
| 売却方法 | 主な申請様式 |
|---|---|
| 家屋または家屋と敷地を売った | 様式1-1 |
| 売主が家屋を解体してから敷地を売った | 様式1-2 |
| 売却後に耐震改修または解体した | 様式1-3 |
市区町村は、亡くなった方の居住状況、相続後に家屋が使われていなかったこと、解体・売却の状況などを提出資料から確認します。
ただし、確認書が交付されても、特別控除の適用が保証されるわけではありません。 確認書は確定申告時に提出する書類の一つであり、制度全体の適用可否は税務署が判断します。発行までの期間も自治体によって異なるため、余裕を持って申請しましょう。
特例は自動的には適用されません。控除後の課税譲渡所得が0円になる場合でも、必要書類を添えて確定申告します。
主な書類は次のとおりです。
- 確定申告書
- 譲渡所得の内訳書
- 家屋と敷地の登記事項証明書など
- 被相続人居住用家屋等確認書
- 売買契約書の写しなど、売却代金が1億円以下と分かる書類
- 耐震基準適合証明書など
- 解体したことを証明する書類
- 売却後の解体・耐震改修を証明する書類
必要書類は、建物付きで売ったのか、解体してから売ったのか、売却後に解体したのかによって変わります。申告前に、最新の提出書類を国税庁と税務署で確認してください。
相続後、売却までの間に家屋や敷地を賃貸、事業、居住に使うと、原則として特例の対象外になります。「売れるまで親族に住んでもらう」「短期間だけ貸す」と考えている場合も、先に確認が必要です。
解体後の土地を売る方法では、対象家屋の「全部の取壊し等」が条件です。母屋の一部、増築部分、対象家屋に該当する部分などを残すと、要件を満たさない可能性があります。
離れや倉庫がある場合は、どの建物が対象家屋に当たるのかも含めて確認しましょう。
売却後に解体する場合は、譲渡した年の翌年2月15日までに全部解体する必要があります。口頭の約束だけにせず、売買契約の特約で期限、費用負担、資料提供、期限に間に合わなかった場合の扱いを決めておくと安心です。
同じ物件について、相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例など、併用できない制度があります。取得費、売却価格、相続税額によって有利な制度が変わるため、比較してから選びましょう。
売却価格が3,000万円以下というだけでは判断できません。特別控除は売却代金ではなく、売却代金から取得費と譲渡費用を差し引いた譲渡所得に適用します。また、対象家屋や売却期限など、制度の条件をすべて満たす必要があります。
2024年(令和6年)1月1日以後の譲渡では、売却後に買主が家屋を全部解体する場合でも、特例を利用できる可能性があります。ただし、譲渡した年の翌年2月15日までに解体することなど、ほかの条件も満たす必要があります。買主の協力が必要になるため、売買契約で期限や書類提供を具体的に決めてください。
必要です。この特例を利用するには、売却方法に応じた書類を添えて確定申告を行います。自動的に控除される制度ではありません。
一定の要介護・要支援認定、施設の種類、入所後の家屋の利用状況などの条件を満たせば、対象になる可能性があります。入所契約書や介護保険関係書類を保管し、国税庁の案内と税務署で確認してください。
土地を売るために建物を取り壊した費用は、譲渡費用に含められることがあります。ただし、売却との直接的な関係や解体後の利用状況などによって判断が変わります。見積書、契約書、領収書を残し、税務署または税理士へ確認してください。
それぞれが家屋と敷地等をどのように取得したか、持分、売却方法などを確認します。また、2024年(令和6年)1月1日以後の譲渡で、対象となる家屋と敷地等を取得した相続人が3人以上いる場合、各相続人の控除上限は2,000万円です。共有者の人数だけで単純に判断せず、遺産分割や売却方法を決める前に確認してください。
相続した空き家の3,000万円特別控除は、一定の条件を満たすと売却時の税負担を抑えられる可能性がある制度です。
ただし、対象家屋、相続後の利用状況、売却期限、解体の時期、売却相手、売却代金、ほかの特例との関係などを確認する必要があります。
解体を検討している場合は、次の順番で進めると判断しやすくなります。
- 家屋と土地の名義を確認する
- 売却期限を具体的な日付で確認する
- 相続後の利用状況を整理する
- 建物付き売却、耐震改修、解体後売却の金額を比べる
- 売買契約や解体契約の前に税務署・税理士へ確認する
- 解体前後の写真と書類を残す
- 市区町村の確認書を取得して確定申告する
「古いから解体した方がよさそう」と工事だけを先に進めず、古家付きと更地の査定額、解体費用、税制の適用可能性を並べてみてください。
まだ解体するか決まっていない方へ
解体費用が分かると、建物付きで売る場合と更地で売る場合の手取り額を比較しやすくなります。建物の広さ、構造、残置物、外構の撤去範囲をそろえて見積もりを比べましょう。
- 空き家の解体費用と、解体・売却を判断するポイント
- 実家の解体費用と家族で確認したいこと
- 古家付き土地を売る前の解体費用と判断ポイント
- 解体工事の進め方と準備の流れ
- 解体前後の届出・手続きと建物滅失登記
- 解体見積書の内訳と追加費用の確認ポイント
- 国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」
- 国税庁「No.3307 被相続人が老人ホーム等に入所していた場合の被相続人居住用家屋」
- 国税庁「No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税)」
- 国土交通省「空き家の発生を抑制するための特例措置」
執筆者
執筆:中原 実咲
住宅解体・空き家整理領域 編集ライター
住宅リフォーム会社の相談窓口、地域工務店の施工事例編集、住まい系比較メディアの編集を経て、解体費用・見積書・空き家管理に関する記事制作を担当。費用の幅、追加費用の条件、契約前の確認点を整理する記事づくりを得意としています。
公開日: 2026.07.21